【観国之光 263】キレる社会 接客業にも影響か? 本社論説委員 内井高弘


社会が何となくギスギスしている。旅行でも行って心に余裕をもちたいものだ(東京都内)

 怒りの沸点が異常に低くなっている。ちょっとしたことでキレ、暴言を吐き、暴力を振るうケースが後を絶たない。人を傷つける行為をあまりに軽く見ている。日本人はいつからこんなに短気になったのだろうか。

 「アンガーマネジメント」が注目を集めている。怒りや悲しみ、劣等感などを自分の中で整理し、その状況を客観的にみることで、怒りなどの強い気持ちが生じても適切にコントロールし、問題解決を図るというスキルのことだ。1970年代に米国の心理教育の一種として誕生したといわれている。

 重要なポイントは「怒りと上手に付き合うこと」とされる。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会は、怒りを感じたら「衝撃のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」の3段階を踏むよう勧めている。

 中でもよく聞くのが「6秒間落ち着く」という対処法だ。怒りのピークは6秒間で、理性が戻ってくるまで深呼吸などでやり過ごすことが大事という。

 とはいえ、「その6秒が長い」「6秒我慢できる人はそもそもキレない」「怒りの時点で我慢できない」といった意見もあるのだが…。

 人と接する機会が多い旅館・ホテルでは、顧客による暴言やセクハラ、果ては土下座の強要など、いわゆる悪質クレームも少なくない。

 ある労組がホテルや介護など「総合サービス部門」の組合員を対象に悪質クレームに関するアンケート調査を行ったところ、悪質クレームを受けた経験がある人は7割を超え、約4割は悪質クレームが「近年増えている」と感じていることが分かった。

 具体的な迷惑行為として、「暴言」「威嚇・脅迫」「何回も同じ内容のクレームを繰り返す」などがあり、セクハラや暴力も見受けられ、「土下座の強要」も少ないながらあった。現場で働く人のストレスはいかばかりか。

 半面、接客する側も問題はないのだろうか。本社には時折、旅館の理不尽な対応を批判する声が寄せられる。事実かどうか正直分からないが、「お客は当館のサービスに全て満足している」と考えるのは楽観過ぎないか。不満をため込んでいるケースもないとはいえまい。

 ネット社会は瞬く間に悪口が拡散する。口コミ評価は気になるところだが、そこにとらわれすぎてもいけない。難しい時代としか言いようがない。

 日本には「短気は損気」という素晴らしい言葉がある。激情に駆られ、人を殴ったりすると取り返しのつかない事態になり、人生をも狂わしかねない。もっと想像力を働かせるべきだ。

社会が何となくギスギスしている。旅行でも行って心に余裕をもちたいものだ(東京都内)

 

 
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